寒くなってくるとイヤホンからヘッドホンに切り替えて通勤しているelmar です。
普段から使っているヘッドホンはSONY MDR-M1ST で、スタジオモニターヘッドホンです。
試聴記はこちら
クセのない音でモニターヘッドホンとしては非常に優良な機種だと思います。
今回は新たに自作ヘッドホンFostex RPKIT50を導入したのでレポートしてみようと思います。
SONY MDR-M1STはその優秀さゆえに飽きてしまうんです(個人の感想です)
ご飯とみそ汁だけではやっぱり飽きがきてパスタやパンが食べたくなってしまうようなものです。
そこで新たに導入するヘッドホンを探し始めたのですがなかなか条件に合うものが見つかりませんでした。
・密閉型
・有線/リケーブル可能
・ノイズキャンセル不要
・50,000円未満
密閉型に限定しているのは通勤でも使用するため音漏れの少ない機種である事を前提としているためです。
最近のヘッドホンはワイヤレス/ノイズキャンセルが搭載されているものが多く音質そのものに向き合ったモデルが少ない気がしているのです。
そこで見つけたのが自作スピーカーで有名なFOSTEXの組み立てヘッドホン【RPKIT50】です。
この製品はRP-平面振動板を使用したユニークなヘッドホンで静電型とダイナミック型の中間のような構造をしています。
現行機種はセミオープン仕様が主力ですがかつて密閉型もあったと記憶しています。
この組み立てキットは同梱品に含まれるパーツを組み合わせることにより仕様を自分好みに変更が可能です。
早速、注文!
数日で到着しましたので取り出してみるとこんな感じ。
箱の中にパーツとヘッドホン本体が詰まってます。
組み立てに移る前に使用する道具を揃えておきます。
・#1プラスドライバー
・ハンダ
・ハンダごて
・ピンセット
同梱されているケーブルは3.5mmステレオミニジャック(アンバランス)と2.5mmバランス用の2本。
elmar はFiiO BTR7で運用予定なので2.5mm<>4.4mm変換コネクターを用意しました。
特にこだわったわけではありませんがオーディオメーカーであるCayinの製品を選びました。
ヘッドホン自体は半完成品といった状態で梱包されています。
マニュアルに従い分解と吸音材の取り付けを行なっていきます。
まずはバッフルを外します。
この裏側に細かな吸音材を貼り付けていきます。
サクサクとネジを緩めます。
バッフルの取り外し完了。
ハウジング内は素材むき出しです。
のちほど吸音材を貼りますがこの材質でも音質が変わってきそうです。
バッフル裏面に吸音材を貼っていきます。
けっこう地道な作業ですが難しいわけではありません。
左右とも貼り付け完了。
この吸音材の量でも音質に差が出るらしいですがひとまずマニュアル通りに作成しています。
次にハウジング内部吸音材を貼っていきます。
素材は既に形状に合わせてカットされていますので剥離紙から剥がしてピンセットで所定の場所へ貼っていきます。
吸音材の糊がピンセットに貼り付く事があるのでなるべく接着面以外を掴むようにします。
ハウジング内部にはチューニングシートを貼りつけます。
密閉型を目指していますのでPET(ポリエチレン)製のシートをチョイスしました。
他に不織布のシートも用意されており、そちらはセミオープン仕様になります。
左右とも貼れたらバッフルにRPユニットを取り付けます。
こちらがこのヘッドホンのRP-平面駆動ユニットです。
一般的なコーン型のヘッドホンとは異なる独自の構造がうかがえます。
ガスケットを挟んでバッフルに取り付けます。
マニュアルに従い向きを合わせて取り付けます。
ここまで出来たら、いよいよお楽しみハンダづけの時間です。
どこのご家庭にも普通にある(?)ハンダごてを使って
ユニットに配線をハンダづけしていきます。
といっても左右のハウジングにはケーブルが通してあるので実際にハンダするのは左右2ヵ所で計4ヵ所だけです。
ハンダにも色々な種類がありますがelmarが愛用しているのはKester 44でギターやエフェクター自作の世界ではスタンダードな商品です。
オーディオ用には銀入りハンダを使う方もいらっしゃいますが、elmarはどちらかといえば押し出しのいいパンチのある音が好きなのでこのハンダをチョイスしています。
ユニットにはすでに予備ハンダが盛られていますのでケーブルにハンダをしてからユニットに取りつけます。
こだわるならこのハンダを除去して好みのハンダを流し込みたいですがこてを当てている時間が長くなり、ユニットを壊してしまう危険を考慮して思いとどまりました。
バッフルをハウジングに取り付けます。
ネジ4本で固定しますので対角線で少しづつトルクをかけて締め付けます。
イヤーパッドを取り付けます。
合皮とベロア仕上げの2種類あり、好みで選択可能。
肌触りの好みもありますが合皮のイヤーパッドを選択しました。
完成!
いかにもモニターヘッドホンといった無骨な外観ですね。
ケーブルは前述のように3.5mmアンバランスと2.5mmバランスが選択できます。
elmarはFiiO BTR7で運用するので2.5mmバランスから4.4mmへ変換コネクターを介して接続します。
早速聴いてみましょう!
一聴してわかるのが左右への広がりと歪み感の少なさです。
ハウジングの大きさが効いているのかサイドに配置された楽器の音がより明確に聴こえてくるようです。
中高域はリニアで非常に端正な出音で確かにモニター直系である事が窺えます。
低域も同様に必要な帯域は十分に出ていますがリズム系の楽曲ではなんとなくパンチ力が不足するような印象。
マニュアルによるとユニットとバッフル間に挟むチューニングダンパーを高密度タイプにすることにより低域ブーストが可能。
このチューニングダンパーを比べてみると標準仕様は柔らかく、高密度タイプは硬くなっています。
換装して試聴し直すとベースやドラムがより強くなりelmar 的にはバランスが良くなったと感じました。
組み立て時に密閉型を選択した以外は標準仕様でしたがこの組み合わせが気に入りましたので本格的に試聴を行います。
試聴
音源はすべてAppleMusicの配信をダウンロードしたもの。
機材はiPhone 14 Pro からFiiO BTR7へケーブル接続しバランス出力にて行いました。
Maneskin/SUPERMODEL
最近、飛ぶ鳥を落とす勢いのイタリアンロックバンド「マネスキン」
イントロがニルヴァーナのアノ曲によく似てて「彼女は90年代のスーパーモデル」といった歌詞がある事からその時代へのリスペクトなんだろうと解釈。
ギター、ヴォーカル、ドラム、ベースが重なっていく展開はロック魂炸裂です。
特にベースラインが重くなりすぎないのがこのヘッドホンでは好印象。
Norah Jones/Come Away With Me
衝撃的だった2002年のファーストアルバムから表題曲を。
2022年にリマスターされた音源で解像度が上がっていますが音の温かみは変わらずです。
ドラムのブラシワークがノイズっぽくならず実体感を持って聴こえてくるかが試聴ポイント。
PinkFloyd/Pigs on the Wing 1(2018 Remix)
オリジナルは1977年発表の名盤ですが諸般の事情により2018年にリマスターされたものの再発されず2022年に配信開始という数奇な運命を辿っています。
冒頭のこの曲はアコースティックギターとヴォーカルのみのシンプルな構成で聴きどころはギターの鳴りっぷり。
ポツンと暗闇に立って呟くような響き方が沁みます。
The RolingStones/Sympathy For The Devil
呪術的なパーカッションとリズムが特長的な曲。
珍しくキース・リチャーズがソロを弾いていてギターの刺さるフレーズや質感が聴きどころの一つ。
宇多田ヒカル/FirstLove(2014 Remaster)
2022Remixが配信されていますがデビュー時から聴いていた曲でもありオリジナルに近い2014年のリマスター音源で聴いています。
オリジナルは1999年。
当時17歳だった彼女のフレーズによっては震える歌声が魅力的です。
リマスター版はヴォーカルがスッと立っているように立体的に聴こえます。
この雰囲気がこのヘッドホンはよくできていてスピーカーに近い鳴り方です。
おそらくリミックス版は現代に合わせイヤホンで聴かれる事を前提にしているように個人的には感じます。
海上自衛隊東京音楽隊&手塚 裕之,三宅 由佳莉/残酷な天使のテーゼ
ブラスバンド演奏は一糸乱れぬ規律の取れた音が魅力の一つですが公的機関の音楽部隊はまさにお手本。
ヴォーカルの三宅 由佳莉さんも現役自衛官ですがこのようなアニメソングも披露されています。
主旋律がリズミカルに盛り上がるところを余すところなく再現できています。
John Williams / Throne Room and Finale from Star Wars
記念すべきスターウォーズシリーズの一作目(エピソード4)より。
ジョン・ウィリアムズ自身がベルリン・フィルを指揮した特別な演奏です。
ルークたちがデススターを破壊して基地に帰還後、表彰を受けるシーンで使われた曲です。
エンドタイトルに入るところでチューバッカの鳴き声が脳内再生される方も多いのでは。
最近の録音でありオリジナルサウンドトラック版より音場も広く、各楽器の位置関係がどう聴こえるかがポイントですが破綻なく描出してくるようです。
試聴を終えて
長時間聴き続けましたが締め付けで耳が痛くなるようなこともなく疲れにくいヘッドホンだと思います。
プロ向けモニターヘッドホンが起源ですからスタジオで長時間装着される事も想定されているのかもしれません。
Fostex RPKIT50はいわゆる普通のヘッドホンですからノイズキャンセル機能などは搭載されていません。
試聴していると外の音もかなり聴こえます。
同時に再生音の音漏れも密閉型にして減少しているとはいえ結構あります。
公共の場所では音量を抑えめにして聴きましょう。
また、ハウジングに何かが当たった時も割とダイレクトに聴こえますのでご注意ください。
制作は簡単ですので興味のあるかたは是非、自作ヘッドホンにチャレンジしてみてください。
elmarがお送りしました。。。。
ちょっと待った
標準仕様でのレビューだけでは当ブログの趣旨にはそぐわないんじゃないですか。
やっぱり「じゃんぱら店員に聞け+!」は実験や冒険を恐れないチャレンジ精神が信条!
かんたんに出来るサウンドチューニングを試してみたいと思います。
ハウジング内の吸音材で音質が変わるかチャレンジ!
スピーカーのエンクロージャーではグラスウールやフェルトなどをよく使いますがスペースの限られたヘッドホンではあまり選択肢がありません。
試しに手近にあったレンズクリーニングペーパーを切り取ってバッフル裏に入れてみます。
これも普通のご家庭にある(?)レンズクリーニングペーパーです。
大まかに切り取り、ハウジング内のサイズに合わせて微調整して挟み込みます。
試聴してみると微弱音が聴き取りやすくなったような印象を受けます。
このスペースに入れるもので音質が変化する事がわかりました。
もう一つ気になっていた点が密閉仕様にする際に使うPETシートです。
ペットボトルで使うポリエチレン素材とのことですが薄っぺらいのでなんとなく余計な振動しそうなのですよね。
そこで自宅にあった素材を貼り付けてみました。
それはカメラ修理やレストアなどで使う内面反射防止フォームです。
なんでこれにしたのかといえば一眼レフのミラーボックスやフィルム室で光線漏れや迷光防止に使うものなら音響的にも固有の振動を防ぐ効果があるのではと考えたからです。
そう、光も音も波で進みますからね。
とはいえ確たる裏付けがあるわけではありません。
とにかくトライ&エラーを繰り返して理想の音を追い求めるのがオーディオの醍醐味でしょう。
さて、この作戦は功を奏し、さらに引き締まった低音が出せるようになりました。
お次はもう少し厚めの素材で試してみます。
用意したのはフェルトとキルト芯(中綿)です。
どちらも100円ショップの手芸コーナーで見つけられると思います。
この素材はスピーカーの吸音材としても利用できるので自作オーディオでは重宝します。
同じように切り抜いて試します。
まずは芯キルトから。
これを入れることによってややデッドニングの効果があるようで聴感上のSN比が上がったように聴こえます。
Norah Jones/Come Away With Me
ドラムのブラシワークを聴いているとちょっと固まって聴こえるように感じます。
総じて好印象ですがやや固めといった印象。
次にフェルトを試します。
これは音の粒だちが良くなって左右の空間が広くなったような印象。
John Williams / Throne Room and Finale from Star Wars
オリジナルサウンドトラック版より全体に雄大な演奏ですがこの組み合わせだとオケの各楽器の距離感をも感じ取れそうです。
他にも試してもみたい素材は色々ありますが、今回はここまで。
オーディオの深淵はいつまで経ってもやめられません。
Fostex RPKIT50は長年のオーディオマニアの期待に応えることはもちろん、初心者であっても探求の道を見せてくれる製品ではないかと思います。
興味のある方はぜひ制作してみてください。
以上、elmarがお送りしました。