この度の令和6年能登半島地震により被害を受けられた皆様に、心からお見舞い申し上げますとともに一日も早い復興をお祈りいたします。
2024年は災害からスタートしてしまいましたが、ぜひ前を向いて歩いていきたいですね。
お久しぶりです、elmarです。
今回はヘッドホンのお話しをしていきます。
オーディオといえばレコードプレーヤーとアンプでスピーカーを鳴らす時代に生まれたelmarにとって音楽を持ち出す衝撃を与えたのは SONY Walkmanに代表されるポータブルオーディオでした。
今でも思い出すのは初めてカセットテープにお気に入りのアルバムを録音して街に繰り出した時に「まるで映画のようだ」と感じた事です。
以前、Walkman40周年記念モデル「SONY NW-A100TPS」のレポートをしたこともありましたね。
実際の音にBGMのように音楽が重なるのは映画を見ているようでバスに乗って移動しているとダスティン・ホフマンになった気分でした(「卒業」よりは「真夜中のカウボーイ」ですが)
当時のポータブルプレーヤーに組み合わされていたのは折りたたみ式で開放型のヘッドホンで必然的に音漏れしまくる仕様でした。
オーディオマニアの社会人なら各社の高級な密閉型ヘッドホンを使っていたのかも知れませんが中高生には高嶺の花でありおいそれと買えるものではなかったですね。
その後、耳に直接はめるタイプのステレオインサイドフォンが隆盛を極め現在のカナル型に進化していくわけです。
elmarもその洗礼を浴びSHUREやEtymoticResarchなど数々のイヤホンを使ってきました。
しかし、どこか違和感というか音が綺麗すぎる事に感覚のズレも感じていた時、一つのヘッドホンと出会いました。
このヘッドホンの日本デビューは1988年で現在まで続くロングセラーです。
明快で抜けの良い音質でポータブルオーディオで聴くPOPSやROCKにはピッタリ。
この抜けの良さは開放型である事とハウジングの軽量さが影響しているのではないかと個人的に思っていました。
しかし、時代はハイレゾ化し配信により、ありとあらゆる音楽がどこでも聴けるようになりました。
ヘッドホンでも高解像度のものが要求されるようになりelmarもまた密閉型ヘッドホンを好んでセレクトするようになっていきました。
そんな今日この頃ですが東京は品川区の老舗音響メーカーが発売したヘッドホンをネットで見つけました。
必要最低限の構造に見えるヘッドホンでなんとなく学校の「視聴覚室」にあるような素っ気ない外見です。
スペック
- 形式:ダイナミック形
- ドライバ:Φ40mm
- インピーダンス:40Ω (at 1kHz/1mW)
- 音圧感度:104dB/mW
- 最大入力:1,000mW(IEC)
- 再生周波数帯域:5-40,000Hz
- コード長:約1,500mm
- プラグ:Φ3.5mm 金メッキステレオプラグ L型
- 質量:約110g(コード含まず)
価格も標準モデルで6,600円と破格に安い。
試しに使ってみるにはいいかもと思いポチってしまいました。
ヘッドバンドはクッション性は少ないのですが必要にして十分な弾力があり思いの外、フィットします。
引き算の美学といった趣のデザインで持ち歩くのにはちょっとだけ勇気がいりますが人と違うものを身につけたい向きは勇気爆発させましょう。
ハウジング部は上下しますのでフィッティングは可能。
骨組みになっている金属のしなりによって支えていますので合う、合わないは個人差があるかも知れません。
ドライバーは40mm口径で迫力ある音質が期待できます。
早速、聴いてみます。
使用した機材はiPad Pro 11インチからFiiO BTR7へUSB-Cケーブルで接続して行っています。
先ごろ急逝したチバユウスケ氏によるメジャーデビュー曲。
インディーズを経て90年代末から2000年代初頭に活動したバンドです。
パブロックやガレージロックを体現していた事もあり高音質を目指した録音ではないですがロックの持つ疾走感がどこまで再現できるかが聴きどころ。
音のカタマリ感がグイグイと前面に出てきて、ついヴォリュームを上げたくなります。
ギターのジャキジャキとした刻みがナマっぽく再現されセンシティブな内面と表現したい欲求のせめぎ合いが感じられるよう。
本機の構造はおそらく密閉型と思われますが音漏れはかなりあるので公共交通機関での使用には自制心が必要ですね。
ストーンズ18年ぶりの新作アルバムから。
どこから聴いてもストーンズの音でいまだに現役で演奏してくれる爺さんたちに乾杯して完敗。
締まった低音が支えるリズムセクションにキースのジャキジャキとしたリフが堪りません。
アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」のサウンドトラックから。
このヘッドホンで聴いているとヴォーカルやギターといった中音域の再現が得意な印象を受けました。
第一印象としては低音も比較的よく出て、常用帯域の音質が滑らかに再現できる手軽な高音質ヘッドホンといった感じです。
本機の接続ケーブルは一般的な銅線ですが上位モデルに【ST−90−07】という無酸素銅(OFC)を用いた機種も存在します。
全体に解像感が上がり、よりスッキリした音像が好みの方はそちらをお勧めします。
ASHIDAVOXは創業80年になる老舗音響メーカー、アシダ音響のブランドであり過去に伝説の名機を生み出しています。
スタジオモニターヘッドホン ST-31 はプロの現場ではよく使われていたようです。
部材のコーン紙の生産終了により惜しまれつつ絶版となっています。
2023年にこのヘッドホンが復刻され【ST-31-02】として限定販売されました。
職人の手作りで出荷されると喧伝されたこのヘッドホン。
当然、elmarは予約するつもりでしたがうっかり一次予約受付を逃してしまい二次予約でどうにか入手できました。
※2024年1月現在、通常販売に切り替わり入手は容易になっています
スペック
- 形式:ダイナミック形
- ドライバー:Φ50mm
- インピーダンス:26Ω(at 1kHz/1mW)
- 音圧感度:104dB/mW
- 最大入力:1000mW(IEC)
- 再生周波数帯域:7-70000Hz
- コード長:約1500mm
- プラグ:Φ3.5mm 金メッキステレオミニプラグ
- 質量:約250g(コード含まず)
パッケージはシンプルな茶箱でプロ機の雰囲気。
本体はヘッドバンドが独立して動く2本の金属で革巻きになっておりクッションは少なめです。
本機のドライバーは50mmの大口径で高帯域再生が謳われています。
昨今の民生用ヘッドホンと比べるとこのあたりは使用による劣化や経年変化の影響を受けにくい構造にしているように感じられます。
やや大振りなオーバーイヤータイプで装着感は良いです。
イヤーパッドは弾力のあるものでピッタリと耳周りにフィットしますが長時間の使用ではちょっと蒸れるかも知れません。
本機はリケーブルには非対応で3.5mmアンバランス接続専用となっておりケーブルは左右のハウジングから直接出ているいわゆる両出しタイプ。
この辺りはバランス接続が当たり前の現代ヘッドホンのユーザーにどう受け入れられるか興味ありますね。
ヘッドホンハウジングはやや光沢のあるプラスティック製でややチープな印象です。
ヘッドホン部は耳に合わせて上下しますが裏面に目盛りが振ってあるので複数人で共有する際に便利。
外観はこれくらいにして早速聴いてみましょう。
①息もできない/ZARD
ZARDのヴォーカル坂井泉水さんはST-31を愛用していたらしく当時のPV(現在のMV)でも装着してレコーディングしている様子が残っています。
中音域の聴きやすさはASHIDAVOX製品に共通しているようですがややサ行が強め。
オーバーヘッドタイプとしては低音も抑え気味で聴き疲れしにくい音質かも。
②The Collector/NINE INCH NAILS
インダストリアルロックの雄、NINのややオルタナ寄りの楽曲。
スネアの乾いた響きが聴きどころ。
音数は少ないながら独自の構成美を感じさせます。
ヴォーカルと重なるシンバルの音もしっかりと聴き取れます。
ズシンとくるバスドラを重低音で表現するというより締まった鳴り方に感じます。
③Birdland/WhetherReport
名盤「HevyWhether」からjazzクラシック曲を。
ジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーターといったマイルス・デイビスバンドメンバーによるエレキトリックジャズの名盤「HevyWhether」からjazzクラシック曲を。
天才ベーシストと言われたジャコ・パストリアスが加入した頃のまさに黄金期の曲。
ジャコのベースを追って聴くと必然的に音量が上がってしまいますので音漏れには十分に配慮したいです。
ここまで聴いてくるとこのヘッドホンの傾向が掴めてきました。
明確にするため①〜③の同じ音源をモニターヘッドホンSONY MDR~M1STで聴いてみます。
このヘッドホンはプロ向けの機材でありどんなソースでも色付けなく再生する事が命題です。
ややもすると音源によってはノイズっぽくなったり聴きづらくなります。
この傾向は①息も出来ない/ZARDでよく分かり、ヴォーカルに伸びがなく寸詰まりの音に聴こえてきます。
対してST-31-02は高域が煌びやかで低域はほどほどでありながらどちらも伸びていくような幅を感じさせます。
②TheCollector/Nine Inch Nailsにおけるドラムのアタックなど打撃音はMDR-M1STに軍配が上がります。
ST-31-02は少しだけ音のエッジが柔らかく中低域がふくよかに響く傾向に高域の煌めきが乗る印象でした。
③Birdland/WhetherReportにおけるシンセサイザーの空間表現はST-31−2がより広がりを感じさせ、リズム隊とブラスセクションの距離感もフラットにならず立体的に聴こえてきます。
MDR-M1STはやはりどこまでもフラットでモニター調であろうとする意地みたいなものを感じました。
結論を言えばST-31-2はアナログレコードっぽい音と感じました。
もちろん、elmarの独断と偏見での感想なのでさまざまな評価があると思います。
時代は高解像度でどこまでも細かい音が聴こえるものが評価されるようですがオーディオ機器は音楽を聴く道具であり音を楽しむためにあります。
肩の力を抜いてゆったりと音楽を楽しむのに最適のヘッドホンの一つではないかとelmarは思います。
実は以前、作成したFostex RPKIT50(記事はこちら)でも聴いているのですが振動板の形式が異なりますし自分でカスタマイズしているので同列には語れません。
歪み感の少なさがダイナミック型との違いで本気で聴く時はこちらを選択してしまいますが本体の軽快さでST-31-2をだんだん心魅かれて使う事も増えていくことでしょう。
以上、elmarがお送りしました。
それではみなさま、良いオーディオライフを。